クリスマス

2008年6月11日
僕には二人の叔母がいる。彼女たちは姉妹なのに、似てない。いまも昔も、ひとりはぽっちゃりしていて、もうひとりはやせている。まだクリスマスにおばさんたちが遊びに来ていた頃だから、保育園のころだとおもう。いつもはほしい物なんて聞かない二人に「プレゼントを買いに行こう」といわれた。たぶん、選ぶのが面倒だったのだとおもう。クリスマスの日は、偶然だとおもうけど、ふたりとも夜勤明けだった、午後にでかけることになった。

 午前中、なにがほしいか考えてみた。大事なのは、二人でひとつのプレゼントか、ひとりずつがひとつずつプレゼントをくれるかだった。僕は、合体や変形をする自動車型ロボットか、マジックテープのくっついた運動靴がほしかった。(紐靴はいやだった。あのビリビリするテープの部分を、はがしたりくっつけたりするのが、よかったのだ。)結局、おばさんは二人いるから、両方買ってもらえるだろうとおもった。

 やせた叔母さんがその頃乗っていた車は、赤い軽自動車だった。ぽっちゃり叔母さんは助手席に、僕は後部座席の真ん中に座って、隣町のおもちゃ屋へ向かった。二人が何を話していたのか、覚えていない。たぶん、病院の話かなんかだとおもう。暖房で、窓が曇っていたから、絵を描いていたら、ミラー越しに、やせた叔母さんに怒られた。

 でも、やせた叔母さんのほうは嫌いじゃなかった。ベリーショートくらいみじかい髪で、指も細くて、果物をむくときがかっこよかったのだ。なんだか全体にバランスを欠いていて、きれいじゃないけどきれいだった。滅多に笑わないのに、面白い事があると、でかい声で笑うのが印象的だった。いまはどこにでもいる、普通のおばさんだけど、よくもわるくも笑い方はあんま変わらない気がする。
 おもちゃ屋に着いて、僕はお目当てのロボをみつけて買ってもらった。
 叔母さんたちがふたりでお金を出していたのをみた僕は「くつもほしい」とはいえなかった。
 帰り道、植木鉢を買いに行っていたじいちゃんを迎えにいった。じいちゃんは、その日に限って、一〇個以上も植木鉢を買っていた。トランクに植木鉢を、後部座席におじいちゃんを乗せて、ホームセンターを離れた。
 
 ちょうど「うんこみたいな匂いがする」といったら、じいちゃんが「肥料だよ」といって始めた肥料の説明を一通り終えて、やせた叔母さんがタバコをすいながら、「じいちゃんの説明わかった?うんこじゃないよ」といって、ぽっちゃり叔母さんが、くすくすわらったあと、交差点を通り過ぎるときだったとおもう。
 
 叔母さんたちの「ひゃっ」て声が聞こえて、じいちゃんの手が僕の身体をおさえたあと、横から、車に追突された。あまり衝撃はかんじなかった気がしたのに、運転席側のガラスが粉々に割れて、叔母さんたちの衣服と、ダッシュボードと車の床やシートに散らばっていた。僕はホームセンターで買ってもらったけど、つぶいりオレンジジュースをこぼしてた。みんな、おどろいていてうごかなかった。しばらくして、だれかが「だいじょうぶ?」といったので、みんなで自分たちに怪我がないかしらべてみた。僕もじいちゃんも、ぽっちゃり叔母さんも無傷だった。ただ、やせた叔母さんの右手がすこし切れたみたいで、血が出ていた。

 車を道路脇にずらして、トランクの中の赤茶色の植木鉢がわれたって話を聞いて外にでると、車のドアがこわれているのをみつけた。ぐらついていて、今にもはずれそうだった。事故相手と話し合いから戻ってきた叔母さんたちが「運転中にこわれそうだね。」という話をしたあと、ふたりで運転席側のドアをひっぺがして車に乗り込んだ。

ひっぺがしたドアが気になって「あれ、あそこに置いていっていいの?」ときくと、「いいのいいの、あれは。」という返事があって、なにがいいのかわかんないけど、「ふーん」といっておいた。車が走りだすと、当たり前のように、運転席の開けっ放しのドアからつめたい風がはいってきた。みんなで「さむいね」なんて言い合っていたら「ドア、はがさないほうがよかったかな」っておばさんたちがいった。

 そのあとは、おじいちゃんの反射神経についての話で盛り上がった。
 
 なんだかつかれた、とおもいながら、クリスマスだからいいかなとおもった。 

 

 ほんとはおばさんはひとりしかいないけどね。
 あんまり知らない人だし。

 ちいさいときって、あんまりつかれたとかおもわないよね。
 自分だけかな。

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