きいろいヘルメット

2008年6月10日
しずかな音がききたいような気分で、自転車に乗っていたら、きいろいヘルメットのおっさんが、山下清スタイルで立ちこぎをしていた。べつにおにぎりを片手に、ペダルをこいでいたわけじゃない。みじかいズボンに、ランニング姿だっただけ。

 おっさんは、ヤクザ映画をみたあとのように肩をいからせていた。視界から消えるまでずっと、自信のある目つきで前をみすえてペダルをこいでいた。鼻息まじりの息遣いが、交差点のすれちがいざま聞こえた。
 どこへむかう、おっさん。
 僕は、そうおもいながら赤い信号の前で立ち止まった。
 
 おっさんはおそらく、誰かをたすけにいく。
 おっさんはおそらく、危険な場所へむかう。
 おっさんはおそらく、野菜なんてきらいだ。

 肉を食え、こころのなかのおっさんが吼えた。 

 僕は彼女からメールが来ていないかなぁと思いながら、自転車をこいだ。家まで、あめもふらずに、塵を含んだ空気が、ぼおっと霧のなかのようにあかるくかすんでいたなかに、藍ばんだ夕ぐれが染みこんでくる。からっぽな黄色いヘルメットを満たして、からっぽな胃袋に収縮音をうながすような図々しさで。

 家のドアの鍵あけたら、だれもいなかった。

 そりゃ、そうだ。

 たよりがないのはいいたより

 ほら、肉を食え。

 追記
 今日はスパゲッティをつくった。
 あんまりおいしくなかったので、もっとおいしいものが作れるようになりたい。

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